東京大学TOPIAのブログ

2023年3月〜。LGBTQ+支援団体である東京大学TOPIAのメンバーが、自由に意見を表明する場です。

LGBTQIA+用語語源付き解説

※ぽーりゃさんがまとめてくださりました。

 

LGBTQIA+用語は数多くあり、そのほとんどがカタカナで、覚えにくいと感じている人は多いと思う。例えば、バイセクシュアル、パンセクシュアル、Aセクシュアル、デミセクシュアルなど、前半部分(接頭辞と言います)が変わるだけの用語も多く、紛らわしいと思う人もいると思います。そこで、この記事ではLGBTQIA+用語の語源を知ることで、用語を覚える一助になるような記事を目指しました。本記事では、基本的にLGBTQIA+用語としての用法に限って解説をしています。また、できる限り多くの用語をカバーしたつもりですが、ここに載っていない用語も多数あると思います。

(注:もちろん、語源となった単語の意味とは意味がずれている単語もあります。しかし、言語というのは日々変化していくものなので、意味が変わるのは当然で、「語源がこうだからこういう意味であるべきだ、意味がずれているのはおかしい」というような主張は、言語学的には正しくありません。

また、ここに挙げる属性(およびここに挙げきれていない属性)はすべて一人一人が引き受けるか否かを選択する権利があります。ある人がある言葉の語義に当てはまっているように見えるからと言って、他人がその人にその言葉を押し付けてはいけません。

文中の略語表記

日本語

英語

古英 古英語

フランス語

古仏 古フランス語

ラテン語

俗羅 俗ラテン語

古典ギリシア

ロシア語

ドイツ語

1.外来語ではない用語

1.1.性的指向

語源

英:sexual orientation の訳語。

語義

後述の性愛的指向(1.2節)と恋愛的指向(1.3節)の両方をまとめて表す言葉として使われてきた例が多いが、性愛的指向のことを性的指向と呼ぶ場合もある。本記事では前者の意味で使う。

1.2.性愛的指向

語源

性的指向だと恋愛的指向を含んでしまうことがあるが、性愛的指向と恋愛的指向が一致しない人もいるため、恋愛的指向を含まないことを明示するために作られた言葉。

語義

どのような対象に性欲を抱くか・抱かないか、どのような性的な行動を起こすか・起こさないか、など。

1.3.恋愛的指向

語源

英:romantic orientation の訳語。

語義

恋愛的に、どのような対象に惹かれるか・惹かれないか。

1.4.性自認/性同一性

語源

英:gender identity の訳語。

語義

自分自身がどの性別に属するか、あるいはどの性別にも属さないかという感覚。感覚であるので、自分自身の意思で自由に変えることはできないが、何らかの要因で変化することも、時と場合によって変動する人もいる。性自認」という言葉は、自分で自由に変えることができるというような誤解を与えうるため、「ジェンダーアイデンティティ」、あるいは単に「ジェンダー」(2.4節)という言葉が望ましい。「性同一性」という言葉もあるが、医学および法律用語としての「性同一性障害」以外にはあまり用いられない。

1.5.出生時に割り当てられた性別

語源

英:Sex assigned at birth の訳語。

語義

出生時に、主に外性器の外見から判断され、出生証明書、戸籍などに記される性別。同じものを指して「身体の性別」という単語が使われることがあるが、定型的な男性型および女性型のどちらにも当てはまらない性的特徴(1.6節)を持つ身体を持つ人(先天的な例としては性分化疾患(1.7節)を持つ人、後天的な例としては性同一性障害と診断され、ホルモン治療や性別適合手術などを受けた人など)もおり、定義が曖昧であるため、望ましくない。

1.6.性的特徴

語源

英:sexual characteristicsの訳語。

語義

性別に関連する身体的特徴。

1.7.性分化疾患

語源

英:disorders of sex development の訳語。

語義

身体の性の発達が先天的に非定型的である状態。出生時(第一次性徴)は定型的に見えても、思春期(第二次性徴)の発達が非定型な場合も、先天的要因によるものなので、性分化疾患に含まれる。

1.8.性同一性障害/性別違和

語源

それぞれ、英:gender identity disorder、英:gender dysphoriaの訳語。

語義

医学/法律用語。ジェンダーアイデンティティ(2.4節)あるいは性表現(1.9節)と、割り当てられた性別との間の著しい不一致や、割り当てられた性別と反対の性別になりたい/として扱われたい強い欲求などが持続している状態を指す。アメリカ精神医学会の『精神障害の診断と統計マニュアル』(DSM)や日本精神神経学会の『性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第4版改)』などにはより詳細な定義や診断条件が掲載されている。

DSMでは、当初前者を使用していたが、2013年の第五版より、後者を使うようになった。日本精神神経学会では引き続き前者が使われている。性同一性障害を持っている人とトランスジェンダーは同義ではなく、どちらか片方だけに当てはまる人もいる。

1.9.性表現

語源

英:gender expression の訳語。

語義

服装や髪型、仕草、言葉遣い、代名詞などの外見において、どのようにジェンダーを表現するかということ。ジェンダーアイデンティティと性表現が一致しない人もいる。

1.10.性別二元論

語源

英:gender binaryの訳語。

語義

性を「男性」と「女性」のどちらかに分類する考えや、それに基づく社会規範のこと。

2.多くの属性に共通して用いられている言葉など

LGBTQIA+用語の後半部分(語基と言います)によくあらわれる言葉や、性に関するマイノリティを包括的にまとめるアンブレラターム(4.12節)を解説する。

2.1.セクシュアル(sexual)

語源

英:sexual orientation (性的指向)の前半部分より。

英:sexual (性の)

< ラテン語 sexualis (性別の)

< ラテン語 sexus (性別) + -alis (形容詞化)

語義

元々は性的指向(1.1節)同様、性愛的指向(1.2節)と恋愛的指向(1.3節)の両方をまとめて表す言葉であり、現在でもその意味で使われることも多いが、性愛的指向と恋愛的指向が一致しない人もいるため、性愛的指向のみを指して「セクシュアル」を使い、恋愛的指向は「ロマンティック」を使う方が望ましい。

2.2.セクシュアリティ(sexuality)

語源

英:sexual + -ity(名詞化)より。

語義

性的指向という概念自体を指す言葉。ロマンティックに対応する同様の言葉が存在しない(あるいは存在するが普及していない)ため、性愛的指向と恋愛的指向のどちらも含めて使われることが多い。セクシュアル(2.1節)例えば、ヘテロセクシュアル

2.3.ロマンティック(romantic)

語源

英:romantic orientation (恋愛的指向)の前半部分より。

英:romantic (恋愛の)

< 仏:romantique ((しばしば物語詩で描かれる)恋愛の)

< 古仏:romanz (物語詩) + -ique (形容詞化)

< 俗羅:*rōmānicē scrībere (ラテン語から派生した口語で書かれた)

< 羅:rōmānicus (ローマ人の)

< 羅:Rōma (ローマ)+ -ānus (~人) + -icus (形容詞化)

語義

恋愛的指向(1.3節)のこと。

2.4.ジェンダー(gender)/ジェンダーアイデンティティ(gender identity)

語源

英:gender identity

英:gender (性別)

< 古仏:gendre (種類、性別)

< 羅:genus (生まれ、人種)

語義

性別への帰属意識。どの性別にも帰属意識がない場合も含む。本来、性自認ジェンダーアイデンティティと同じ意味だが、誤解を生みやすいので、ジェンダーアイデンティティの方が望ましい。1.4節参照。

2.5.スペクトラム(spectrum)

語源

英:spectrum (スペクトル、範囲)より。

英:spectrum

< 羅:spectrum (影像、投影、幽霊)

「影像」 > 「光のスペクトル」 > 「範囲」と意味が拡大した。

語義

ある属性とその属性と連続的につながっている近接的な属性を包括的に表すアンブレラターム(4.12節)。

2.6.ジェンダー・セクシュアル・ロマンティック・マイノリティーズ (GSRM)/性的マイノリティ

語源

英:Gender, Sexual, and Romantic Minorities

gender, sexual, romantic, minorityについてはそれぞれ2.4節、2.1節、2.3節、4.1節を参照。

語義

日本語の「性別」や「性」は、英語のgender, sexual, romanticをすべて包含することができるため、性に関するマイノリティ(4.1節)のことを包括的に表すアンブレラターム(4.12節)として、「性的マイノリティ」を使うことができる。かつては、「性的マイノリティ」の意味で、「セクシュアル・マイノリティ」が使われていたが、「セクシュアル」は2.1節でも述べたように性愛的指向を表す語であるため、ジェンダーアイデンティティおよび恋愛的指向におけるマイノリティを含む集団を指すには不適切である。よって、ジェンダーアイデンティティにおけるマイノリティ、性愛的指向におけるマイノリティ、恋愛的指向におけるマイノリティがいることを表す語として、「ジェンダー・セクシュアル・ロマンティック・マイノリティ (GSRM)」がある。

2.7.SOGI (ソジ)/ SOGIE (ソジー)/ SOGIESC (ソジースク、ソジエスク)

語源

英:sexual orientation, gender identity and expression, and sexual characteristics(性的指向ジェンダーアイデンティティおよび表現、および性的特徴)の頭文字をとった語。

語義

SOは性的指向、GIはジェンダーアイデンティティ、GIEはジェンダーアイデンティティおよび表現、SCは性的特徴。人や集団ではなく、概念を指すので、「SOGIに関するマイノリティ」などのように使う。

LGBTQIA+(2.8節)のように属性を並べる方法だと、可視化される属性とそうでない属性が出てきてしまうため、それを避けるために作られた語。

2.8.LGBT / LGBTQ+ / LGBTQIA+

語源

英:Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender, Queer/Questioning, Intersex, Asexualの頭文字をとった語。この他にもいるという意味を込めて、最後に+が加えられることもある。様々なバリエーションがあり、全て列挙することはできないので、ここでは代表的なものだけを載せた。

語義

ジェンダー・セクシュアル・ロマンティック・マイノリティ (GSRM)(2.6節)と同様に、性に関するマイノリティを包括的に表すアンブレラターム(4.12節)。可視化される属性とそうでない属性が出てきてしまうため、不公平であるという指摘もある(そのため、様々なバリエーションが存在する)が、現在一番世間一般に浸透している言葉である。

3.接頭辞

この節では、さまざまな属性を表すために使われる接頭辞を説明する。

3.1.ヘテロ(hetero-)

語源

希:ἕτερος (もう一方の)より。

tero-の部分は英:otherのtherの部分や英: alternateのterの部分などと同根(遡っていくと同じものだったということ)。

語義

自分とは異なることを表す。ただし、性別にも、ジェンダーアイデンティティ(2.4節)、性表現(1.9節)、出生時に割り当てられた性別(1.5節)など、さまざまあるため、「異性」をきちんと定義するのは困難である。

ヘテロセクシュアル:「異性」に性愛的に惹かれる性愛的指向、およびそのような性愛的指向を持つ人。。特に男性が女性に、女性が男性に性愛的に惹かれる場合を指して使われることが多い。「ヘテロ」と略されることがある。

ヘテロロマンティック:「異性」に恋愛感情を持つ恋愛的指向、およびそのような恋愛的指向を持つ人。。特に男性が女性に、女性が男性に恋愛感情を持つ場合を指して使われることが多い。hetero-という接頭辞自体は、heterodox(異端の)など、性別に関係しない言葉にも登場する。

3.2.ホモ(homo-)

語源

希:ὁμός (同じ)より。

英:sameや露:самと同根。

語義

自分と同じことを表す。3.1節でも書いたが、性別にもさまざまあるため、「同性」をきちんと定義するのは困難である。homo-という接頭辞自体は、homogeneous(同質な)など、性に関係しない言葉にも登場する。

ホモセクシュアル:「同性」に性愛的に惹かれる性愛的指向、およびそのような恋愛的指向を持つ人。特に男性が男性に、女性が女性に性愛的に惹かれる場合を指して使われることが多い。「ホモ」と略した場合、「ヘテロ」の場合と異なり、差別的ニュアンスを含むことが多いので注意。

ホモロマンティック:「同性」に恋愛感情を持つ恋愛的指向、およびそのような恋愛的指向を持つ人。特に男性が男性に、女性が女性に恋愛感情を持つ場合を指して使われることが多い。

ホモフォビアホモセクシュアルまたはホモロマンティックの人へのフォビア(4.16節)

3.3.シス(cis-)

語源

羅:cis (こちら側に、同じ側に)より。

地名に用いられることがある(Cisjordan:ヨルダン川西岸地区、ヨーロッパから見てヨルダン川のこちら側にあるため)。

語義

同じ側に。性に関する文脈では下のシスジェンダーの意味で使われることがほとんどである。

シスジェンダージェンダーアイデンティティが出生時に割り当てられた性別と一致している(「同じ側に」ある)こと、およびそのような人。「シス」と略されることがある。

3.4.トランス(trans-)

語源

羅:trāns (向こう側に、違う側に)より。

地名に用いられることがある(Transjordan:現在のヨルダン、ヨーロッパから見てヨルダン川の向こう側にあるため)ほか、英:translate, transfer, transit, transcontinental などのように、「向こう側に移動させる」ことに関連する言葉によく用いられる。

語義

違う側に。性に関する文脈では下のトランスジェンダーの意味で使われることがほとんどである。

トランスジェンダージェンダーアイデンティティが出生時に割り当てられた性別と異なる(「違う側に」ある)こと、およびそのような人。シスジェンダー(3.3節)でないという意味で使われることもあるが、そうでない場合も多い。例えば、ノンバイナリー(3.12節)、Xジェンダー(3.5節)、ジェンダークィア(4.10節)などはトランスジェンダーに含めないこともある。「トランス」と略されることがある。

トランスフォビアトランスジェンダーの人へのフォビア(4.16節)

3.5.X

語源

数学で未知数を表す文字としてXを使い始めたことから派生して、未知であったり、名前が付いていなかったりするものを呼ぶときに使う用法が生まれた。

Xジェンダーは1990年代後半に作られた和製英語

語義

性に関する文脈では、男性(M)でも女性(F)でもないことを指して使われる。近年では、オーストリアなどの国々で、書類の性別欄で従来のMとFに加え、Xが導入されている。

Xジェンダー:男性でも女性でもないジェンダー、およびそのようなジェンダーアイデンティティを持つ人。ノンバイナリー(3.12節)、ジェンダークィア(4.10節)、Xジェンダーは同じ意味で使われることもあるが、含意するニュアンスが違ったり、人によって指す対象が違っていたりもする。

3.6.バイ(bi-)

語源

羅:bis (2回、2通り)より。

英:twilightやtwiceのtwi-と同根。英:bilingual(バイリンガル)など、2つのものに関連する言葉によく用いられる。

語義

2つの。

バイセクシュアル:元々は男性と女性の「二性」に性愛的に惹かれる性愛的指向、およびそのような性愛的指向を持つ人を指す言葉だが、ノンバイナリー(3.12節)なども性愛的指向の対象に含んでいる用法もある。「バイ」と略されることがある。

バイロマンティック:元々は男性と女性の「二性」に性愛的に惹かれる恋愛的指向、およびそのような恋愛的指向を持つ人を指す言葉だが、ノンバイナリー(3.12節)なども恋愛的指向の対象に含んでいる用法もある。

3.7.パン(pan-)

語源

希:πᾶς(全て)より。

日:パノラマや英:pan-European などの言葉に登場する。

語義

全て。ただし、元の意味は同じ「全て」だが、オムニ(3.8節)とは違う意味で使われることがある。

パンセクシュアル:性に関わらず、あるいはどの性にも性愛的に惹かれる性愛的指向、およびそのような性愛的指向を持つ人。

パンロマンティック:性に関わらず、あるいはどの性にも恋愛的に惹かれる恋愛的指向、およびそのような恋愛的指向を持つ人。

パンジェンダー:全てのジェンダーにわたり変動する、あるいはすべてのジェンダーを包含するジェンダーアイデンティティ、およびそのようなジェンダーアイデンティティを持つ人。

3.8.オムニ(omni-)

語源

羅:omnis (全て)

日:オムニバスや英:omnipotent などの言葉に登場する。

語義

全て。ただし、元の意味は同じ「全て」だが、パン(3.73.8節)とは違う意味で使われることがある。

オムニセクシュアル:どの性にも性愛的に惹かれる性愛的指向、およびそのような性愛的指向を持つ人。性によって惹かれ方が異なる人もいるが、そうでない人もいる。

オムニロマンティック:どの性にも恋愛的に惹かれる恋愛的指向、およびそのような恋愛的指向を持つ人。性によって惹かれ方が異なる人もいるが、そうでない人もいる。

オムニジェンダー:しばしばパンジェンダーと同じ意味で用いられるが、ほぼすべてのジェンダーを経験するが経験しないジェンダーが存在する場合や、ジェンダーによって度合いが違う場合など、パンジェンダーとは異なる意味で使う場合もある。

3.9.アブロ(abro-)

語源

希:ἁβρός (繊細な)より。

語義

流動的なこと。性に関する文脈以外ではあまり用いられない。

アブロセクシュアル:性愛的指向が流動的であること、およびそのような人。

アブロロマンティック:恋愛的指向が流動的であること、およびそのような人。

3.10.ポリ(poly-)

語源

希:πολῠ́ς (多くの)より。

英:plusや独:vielなどと同根。日:ポリエチレン、ポリゴンなど、よく使われる接頭辞である。

語義

複数の。

ポリセクシュアル:全てとは限らないが、複数の性に惹かれる性愛的指向、およびそのような性愛的指向を持つ人。

ポリロマンティック:全てとは限らないが、複数の性に惹かれる恋愛的指向、およびそのような恋愛的指向を持つ人。

ポリジェンダー:複数のジェンダーの間を流動する、あるいは同時に持つジェンダーアイデンティティ、およびそのようなジェンダーアイデンティティを持つ人。

3.11.ア/A

語源

希:ᾰ̓- (無~、不~、非~、反~)

英:unknownのun-、羅:inimīcus のin-などと同根。「反対の」という意味でも使われることのある接頭辞である。日:アシンメトリー、英:atomなどの例がある。

語義

無いこと。

ア(A)セクシュアル:性愛的に惹かれることが無い、性愛が意味を持たないなど、「性愛が無い」性愛的指向、およびそのような性愛的指向を持つ人。英語ではAceと略される。日本語では性愛も恋愛感情も無い場合をア(A)セクシュアルと呼ぶこともあるが、英語ではその場合は大抵ア(A)セクシュアルかつア(A)ロマンティックと呼ぶ。

ア(A)ロマンティック:恋愛的に惹かれることが無い、恋愛が意味を持たないなど、「恋愛感情が無い」恋愛的指向、およびそのような恋愛的指向を持つ人。英語ではAroと略される。

ア(A)ジェンダー:どのジェンダーでもない、あるいはジェンダーが意味を持たないなど、「ジェンダーがない」ジェンダーアイデンティティ、およびそのようなジェンダーアイデンティティを持つ人。

Aスペクトラムア(A)セクシュアル、ア(A)ロマンティック、およびそれらと連続的につながっている近接的な属性を包括的に表すアンブレラターム(4.12節)。英語ではA-specやAce/Aro spectrumとも呼ばれる。また、性愛的指向のみのスペクトラムとしてア(A)セクシュアルスペクトラム、恋愛的指向のみのスペクトラムとしてア(A)ロマンティックスペクトラムもある。Aスペクトラムに含まれる、ア(A)セクシュアルとア(A)ロマンティック以外の属性としてはデミセクシュアル/ロマンティック、リスセクシュアル/ロマンティックなどがある。

3.12.ノン(non-)

語源

英:non- (~ではない、~なしの)より。

英:non-

< 古仏:non- (~ではない)

< 羅:nōn (否定辞)

または、

英:non-

< 古英:nān (一つも~ない)

古英:nān も羅:nōn も英:none も同根。日:ノンフライ、ノンアルコールなど、よく使われる接頭辞である。

語義

無いこと、あるいは否定。

ノンバイナリー:性別二元論(1.10節)/ジェンダーバイナリー(4.3節)に当てはまらないジェンダーアイデンティティ、およびそのようなジェンダーアイデンティティを持つ人。ノンバイナリー、ジェンダークィア(4.10節)、Xジェンダー(3.5節)は同じ意味で使われることもあるが、含意するニュアンスが違ったり、人によって指す対象が違っていたりもする。

ノンセクシュアル:日本語では、ア(A)セクシュアルに恋愛感情がないことを含めることがあるため、恋愛感情はあるが、性愛はない場合を指してノンセクシュアルと言ったりする。

3.13.アロ(allo-)/Z (zed-)

語源

希:ἄλλος (他の)

英:elseや羅:aliusと同根。

Zの方はAの反対ということで用いられている。

語義

ア(A)セクシュアル/ロマンティック/ジェンダーではないこと。

アロ(Z)セクシュアル:ア(A)セクシュアルでない人

アロ(Z)ロマンティック:ア(A)ロマンティックでない人

アロ(Z)ジェンダー:ア(A)ジェンダーでない人

3.14.デミ(demi-)

語源

英:demi- (半分の、部分的な)

< 古仏:demi (半分)

< 羅:dīmidius (半分)

< 羅:dis- (分けられた) + medius (真ん中)

日:デミグラスソースのデミと同根。

語義

半分の、あるいは部分的な。

デミセクシュアル:すでに親しくなった相手にしか性愛的に惹かれない性愛的指向、およびそのような性愛的指向を持つ人。見た目などの第一印象からくる性愛と、相手をよく知ったあとで抱く性愛のうち、片方(後者)しか持たないことから。

ミロマンティック:すでに親しくなった相手にしか恋愛的に惹かれない恋愛的指向、およびそのような恋愛的指向を持つ人。見た目などの第一印象からくる恋愛感情と、相手をよく知ったあとで抱く恋愛感情のうち、片方(後者)しか持たないことから。

デミジェンダー:あるジェンダーと部分的につながりがあるジェンダーアイデンティティを持つ人を包括的に表すアンブレラターム(4.12節)。それぞれのジェンダーは、どのジェンダーに部分的につながるかにより、デミガールデミボーイデミノンバイナリーデミア(A)ジェンダーなどと呼ばれる。

3.15.リス(lith-)

語源

希:λῐ́θος (石)

日:リチウムもこの単語由来。

語義

他人に惹かれるが、他人が自分に惹かれることを望まないこと。

リスセクシュアル:他人に性愛的に惹かれるが、他人が自分に性愛的に惹かれることを望まない、あるいはそうなった場合に性愛的に惹かれなくなる性愛的指向、およびそのような性愛的指向を持つ人。

リスロマンティック:他人に恋愛的に惹かれるが、他人が自分に恋愛的に惹かれることを望まない、あるいはそうなった場合に恋愛的に惹かれなくなる恋愛的指向、およびそのような恋愛的指向を持つ人。

3.16.グレー(gray-/grey-)

語源

英:gray/grey (灰色)より。

語義

はっきりしない、あるいは薄いこと。

グレーセクシュアル:性愛的な惹かれ方が弱い、性愛があるのかないのかはっきりしないなど、「性愛が薄い」性愛的指向、およびそのような性愛的指向を持つ人。

グレーロマンティック:恋愛的な惹かれ方が弱い、恋愛感情があるのかないのかはっきりしないなど、「恋愛感情が薄い」恋愛的指向、およびそのような恋愛的指向を持つ人。

グレージェンダージェンダーの感覚が弱い、ジェンダーがあるのかないのかはっきりしないなど、「ジェンダーが薄い」ジェンダーアイデンティティ、およびそのようなジェンダーアイデンティティを持つ人。

3.17.クワ(quoi-)/WTF/ワット(what-)

語源

それぞれ、仏:quoi (何)、英(スラング):What the fuck? (一体何なんだよ)、英:what(何)より。quoiはクォイと読まれることもある。

語義

確信が持てない、他のものと区別できない、何なのか理解できないなどという意味。

クワ(WTF、ワット)セクシュアル:自分の感じているものが性愛なのかわからない、他人に惹かれる他の感情(例えば友情など)と性愛の区別がつかない、そもそも性愛の概念が理解できないなど、「性愛がわからない」性愛的指向、およびそのような性愛的指向を持つ人。

クワ(WTF、ワット)ロマンティック:自分の感じているものが恋愛感情なのかわからない、他人に惹かれる他の感情(例えば友情など)と恋愛感情の区別がつかない、そもそも恋愛の概念が理解できないなど、「恋愛がわからない」恋愛的指向、およびそのような恋愛的指向を持つ人。

クワ(WTF、ワット)ジェンダー:自分の感じているものがジェンダーなのかわからない、他の感覚とジェンダーの区別がつかない、そもそもジェンダーの概念が理解できないなど、「ジェンダーがわからない」ジェンダーアイデンティティ、およびそのようなジェンダーアイデンティティを持つ人。

3.18.サピオsapio-)

語源

羅:sapiō (知る、理解する)より。

ヒトの学名 homo sapiens の sapiens も同じ単語由来。英:philosophyの-soph-の部分と同根。

語義

知性に関連すること。

サピオセクシュアル:他人の知性に性愛的に惹かれる性愛的指向、およびそのような性愛的指向を持つ人。

サピオロマンティック:他人の知性に恋愛的に惹かれる恋愛的指向、およびそのような恋愛的指向を持つ人。

3.19.キュピオ(cupio-)

語源

羅:cupiō (望む、欲する)より。

日:キューピッドもこの単語由来。

語義

他人に惹かれないが、関係を持つことは欲すること。

キュピオセクシュアル:他人に性愛的に惹かれないが、他人と性的関係になることは欲する性愛的指向、およびそのような性愛的指向を持つ人。

キュピオロマンティック:他人に恋愛的に惹かれないが、他人と恋愛関係になることは欲する恋愛的指向、およびそのような恋愛的指向を持つ人。

3.20.ガイネ(gyne-)

語源

希:γῠνή (女性、妻)より。

英:queen と同根。

語義

女性。

ガイネセクシュアル:女性および/または女性性に性愛的に惹かれる性愛的指向、およびそのような性愛的指向を持つ人。レズビアン(4.5節)やヘテロセクシュアル(3.1節)、ホモセクシュアル(3.2節)などの言葉にはその人のジェンダーも関係し、男性でも女性でもないジェンダーを持っている人は使うことが困難であるため、作られた言葉。

ガイネロマンティック:女性および/または女性性に恋愛的に惹かれる恋愛的指向、およびそのような恋愛的指向を持つ人。レズビアン(4.5節)やヘテロロマンティック(3.1節)、ホモロマンティック(3.2節)などの言葉にはその人のジェンダーも関係し、男性でも女性でもないジェンダーを持っている人は使うことが困難であるため、作られた言葉。

3.21.アンドロ(andro-)

語源

希:ᾰ̓νήρ (男性、夫、人間)より。

日:アンドロイドのアンドロもこの単語由来。

語義

男性。

アンドロセクシュアル:男性および/または男性性に性愛的に惹かれる性愛的指向、およびそのような性愛的指向を持つ人。ゲイ(4.4節)やヘテロセクシュアル(3.1節)、ホモセクシュアル(3.2節)などの言葉にはその人のジェンダーも関係し、男性でも女性でもないジェンダーを持っている人は使うことが困難であるため、作られた言葉。

アンドロロマンティック:男性および/または男性性に恋愛的に惹かれる恋愛的指向、およびそのような恋愛的指向を持つ人。ゲイ(4.44.5節)やヘテロロマンティック(3.1節)、ホモロマンティック(3.2節)などの言葉にはその人のジェンダーも関係し、男性でも女性でもないジェンダーを持っている人は使うことが困難であるため、作られた言葉。

3.22.モノ(mono-)

語源

希:μόνος (1つだけの、唯一の)

日:モノクロのモノはこの単語由来。

語義

一つだけの。

モノセクシュアル:一つの性にのみ性愛的に惹かれる性愛的指向、およびそのような性愛的指向を持つ人を包括的に表すアンブレラターム(4.12節)。

ノロマンティック:一つの性にのみ恋愛的に惹かれる恋愛的指向、およびそのような恋愛的指向を持つ人を包括的に表すアンブレラターム(4.12節)。

3.23.マルチ(multi-)

語源

羅:multus (多くの)

日:マルチメディア、マルチビタミンなど、よく使われる接頭辞である。

語義

複数の。

マルチセクシュアル:複数の性にのみ性愛的に惹かれる性愛的指向、およびそのような性愛的指向を持つ人を包括的に表すアンブレラターム(4.12節)。マルチロマンティックも含むマルチセクシュアルスペクトラム(m-spec)という言葉もある。

マルチロマンティック:複数の性にのみ恋愛的に惹かれる恋愛的指向、およびそのような恋愛的指向を持つ人を包括的に表すアンブレラターム(4.12節)。

4.その他

4.1.マイノリティ(minority)

語源

英:minority (元々の意味は「より小さいこと」)

< 仏:minorité (より小さいこと)

< 羅:minōritās (より小さいこと)

< 羅:minor (より小さい) + -tās (名詞化)

英:minorityの意味の変遷

「より小さいこと」

> 「未成年者」(1540年代~)

> 「全体を2つに分けたうちの小さい方」(1736年~)

> 「少数派」(1789年以前~)

> 「人種、宗教、言語などにおいて、共同体の多くの人たちとは違う人々」(1919年~)

語義

人種、宗教、言語、民族、障害の有無、性的指向性自認など、自分で変えることができない属性によって社会的に差別や偏見、不当な扱いを受けている人々のこと。社会的少数派。社会的に抑圧されていれば、人数が多くてもマイノリティである。人数的には少数派ではないが、マイノリティである例として、女性(約半数)やアパルトヘイト時代の南アフリカ共和国の非白人(8割以上)が挙げられる。対義語はマジョリティ(4.2節)。ただし、単に数が少ない少数派の意味で用いられることもある。

4.2.マジョリティ

語源

単語自体は英:majorityから。意味はマイノリティの対義語として。

英:majority (元々の意味は「より大きいこと」)

< 仏:majorité (より大きいこと)

< 羅:māiōritās (より大きいこと)

< 羅:maior (より大きい) + -tās (名詞化)

英:majorityの意味の変遷

「より大きいこと」

> 「成年者」(1560年代~)

> 「全体を2つに分けたうちの大きい方」(1690年代~)

語義

マイノリティ(4.1節)でない方。英語のmajorityは単に人数が多い多数派を意味するが、日本語のマジョリティは、マイノリティからの類推で、人数が少なくても発言権が強く優位な立場にある集団も含む。英語ではそのような場合dominant minorityという言葉を使う場合がある。

4.3.ジェンダーバイナリー

語源

英:gender binaryより。

英:binary (2つの要素からなるもの)

< 羅:bīnārius (2つの要素からなる)

< 羅:bis (2回、2通り) + -īnus (~に関係する) + -ārius (形容詞化) 

語義

性別二元論(1.10節)のこと。

4.4.ゲイ(Gay)

語源

英:gay (元々の意味は「陽気な」)より。

英:gay

< 古仏:gai (陽気な)

英:gayの意味の変遷

gay 「陽気な」

> gay 「性に奔放な」(1630年代~)

> gay cat 「若いホーボー」(ホーボーとはアメリカで仕事を求め放浪していた貧しい男性労働者のこと。しばしば若いホーボーは年上のホーボーに性的搾取されていたため。1893年~)

> gay cat 「同性愛の少年」(20世紀の初頭~)

> gay 「男性の同性愛者(自称)」(1920年頃~現在)

> gay 「性的マイノリティ(自称)」(1950年頃~2000年頃?)

語義

同性愛者。特にジェンダーが男性でホモセクシュアルかつホモロマンティック(3.2節)である意味で使われることが多い。

4.5.レズビアン(Lesbian)

語源

英:lesbian (女性の同性愛者)より。

英:lesbian

< 希:Λέσβος (レスボス島) + 羅:- iāna (~の女性)

レスボス島出身の女性詩人サッポーが女性に向けた感情的な詩で有名だったことから。ただし、元々は「性愛や恋愛に関する」という意味で使われており、「女性の同性愛者」という意味で使われている記録が初めて現れるのは1925年。レスボス島の住民のうち、元々レスボス島の人間を意味していたレズビアンという言葉を、女性同性愛者を指して使うことを歓迎していない人もおり、女性同性愛者と結び付いているレスボス島の名前の代わりに、中心都市の名前からミティリニ島という名前を使う人もいる。2008年には島の住民が訴訟も起こしているが訴えは棄却されている。

語義

女性の同性愛者。特にジェンダーが女性でホモセクシュアルかつホモロマンティック(3.2節)である意味で使われることが多い。「レズ」と略すと差別的ニュアンスを含む場合が多い。「ビアン」と略すのが望ましい。

4.6.クィアQueer

語源

英:queer (元々の意味は「変わっている、普通ではない」)

英:queer の意味の変遷

「変わっている、普通ではない」

> 「同性愛者」(19世紀末~)

> 「男性の同性愛者(アメリカ人男性同性愛者の自称)」(1910年以前~1950年代)

> 「男性の同性愛者(蔑称)」(1930年代~)

> 「性的マイノリティ(gayを保守的すぎると感じた当事者たちがgayの代わりに使い始めた)」(1980年代~)

語義

性的マイノリティ(2.6節)全般を指して使うことが多いが、もっと狭い範囲に限定されることもある。

4.7.インターセックス(Intersex)

語源

英:intersex (インターセックス)より。

< 独:Intersexe (男性の特徴と女性の特徴を両方持っている人を指すために作られた医学用語)

< 羅:inter- (間の、相互の) + sexus (性別)

語義

先天的な身体の特徴が定型的な男性型でも女性型でもない人のこと。あまり明確に定義されていない。

4.8.クエスチョニング(Questioning)

語源

英:questioning (疑問を持っていること)

< 英:question (疑問、質問)

< 古仏:question (疑問、質問)

< 羅:quaestiō (問題、調査)

語義

自分のセクシュアリティ(2.2節)やジェンダーアイデンティティ(2.4節)が決まっていない、またはそれらを決めていない状態。

4.9.ジェンダーフルイド(Genderfluid)

語源

英:genderfluid (ジェンダーフルイド)より。

英:genderfluid

< 英:gender (ジェンダー) + fluid (流体)

語義

ジェンダーが流動的に変化するジェンダーアイデンティティ、およびそのようなジェンダーアイデンティティを持つ人。

4.10.ジェンダークィア(Genderqueer)

語源

英:genderqueer (ジェンダークィア)より。

英:genderqueer

< 英:gender (ジェンダー) + queerクィア、4.6節)

語義

性別二元論(1.10節)/ジェンダーバイナリー(4.3節)に当てはまらないジェンダーアイデンティティ、およびそのようなジェンダーアイデンティティを持つ人。ノンバイナリー(3.12節)、ジェンダークィアXジェンダー(3.5節)は同じ意味で使われることもあるが、含意するニュアンスが違ったり、人によって指す対象が違っていたりもする。

4.11.ストレート(Straight)

語源

英:straight (異性愛者(性的指向に関するマイノリティからの呼称))より。

英:straight

< 英:straight (strait) and narrow path (「正直に、規則と計画にのっとった」という意味のイディオム。直訳は「狭くて細い道」)

< 英:“Because strait is the gate, and narrow is the way, which leadeth unto life, and few there be that find it.” (「命に通じる門は狭く、その道も細い。そして、それを見いだす者は少ない。」 新約聖書マタイによる福音書7章14節)

語義

異性愛者。ヘテロセクシュアルかつヘテロロマンティック(3.1節)の人。

4.12.アンブレラターム(umbrella term)

語源

英:umbrella term (アンブレラターム)より。

英:umbrella term

< 英:umbrella (傘) + term (用語)

傘のように複数の属性をカバーすることから。

語義

複数の属性を包括的に表す用語のこと。

4.13.カミングアウト(coming-out)

語源

英:coming out (of the closet) (直訳:(クローゼットの中から)出てくること)

英:skeleton in the closet(「恥ずかしい秘密」という意味のイディオム。直訳は「クローゼットの中の骸骨」)

1920年代~30年代にはゲイ社会へと「出てくる」ことを若い上流階級の女性が社交界へと「出てくる」ことになぞらえて coming out と呼んでいた。そもそもこの時代は同性愛が違法とされている国も多く、同性愛であることを打ち明けることは法的なリスクが大きかった。第二次大戦後に、そのような状況が改善されると、同性愛者がskeleton in the closetを打ち明けて、異性愛的社会に「出てくる」という意味で coming out of the closet というようになった。

語義

自分のジェンダーアイデンティティ(2.4節)やセクシュアリティ(2.2節)を他人に打ち明けること。

4.14.アウティング(outing)

語源

英:coming out (of the closet) (直訳:(クローゼットの中から)出てくること)の out より。

1990年1月29日号の『タイム (雑誌)』にて評論家William A. Henry IIIが 「Forcing Gays Out of the Closet」(ゲイをクローゼットから無理やり出すこと)という記事

https://content.time.com/time/subscriber/article/0,33009,969264,00.html

を執筆し、一般社会に”outing”という言葉を広めた。

語義

他人のジェンダーアイデンティティ(2.4節)やセクシュアリティ(2.2節)を本人の許可なく別の人に暴露すること。

4.15.アライ(Ally)

語源

英:ally (仲間、味方)より。

語義

性的マイノリティと連帯し、声を上げ、差別や偏見とたたかう人。

4.16.フォビア(-phobia)

語源

希:φόβος (恐れ、恐怖)より。

露:бе́гатьと同根。

語義

ある特定の属性や物、事柄などへの嫌悪感や恐怖感などの否定的な感情および価値観。「~嫌悪」や「~恐怖症」と訳されることが多い。例:ホモフォビア(同性愛嫌悪)、アクロフォビア(高所恐怖症)

4.17.○t○

語源

英:to (~へ)より。

語義

○の部分にはM, F, Xが入る。1番目の○には出生時に割り当てられた性別(1.5節)を入れ(あるいはインターセックスの場合Xを入れることもある)、2番目の○にはジェンダーアイデンティティを入れ、トランスジェンダーXジェンダーなどが自分の属性を示すのに使う。

5.おまけ

5.1.ミサンドリー(misandry)/ミソジニー(misogyny)

語源

英:misandry (ミサンドリー

< 希:μῑσᾰνδρῐ́ᾱ (男性嫌い)

< 希:μῑσέω (嫌う) + ᾰ̓νήρ (男性、夫、人間) + -ῐ́ᾱ(抽象名詞化)

英:misogyny (ミソジニー

< 希:μῑσογῠνῐ́ᾱ (女性嫌い)

< 希:μῑσέω (嫌う) + γῠνή(女性、妻) + -ῐ́ᾱ(抽象名詞化)

語義

ミサンドリーは男性への嫌悪あるいは憎悪、ミソジニーは女性への嫌悪あるいは憎悪を指す。

「プライド」月間に寄せて

 

(文責は、Kです)

これを書いているのは2023年6月15日。間違いなく、日本のLGBTQIA+コミュニティにとって、悪しき記念日として残る日だ。トランスジェンダーをはじめとする私たちのコミュニティのメンバーたちが「全ての国民」を脅かすかのような条文が、衆参両院を通過してしまった。

 

「全ての国民」に私たちは入っているのか、そこから疑問だ。

こういうふうに言えば、法案推進派と、それを支持する大勢の人々(重要なことなので注記しておくが、ここにはLGBTQIA+当事者も大勢含まれる。残念ながら)は、こう言うだろう。

「いや、別に全ての国民にも、皆さんは入ってますよ。ただ、マイノリティの権利が無条件に保証されるなんてことがあったら、この法案が『利用』されるかもしれない。それを防ぐためのものなんです」

私たちはどう言い返せばいいだろうか?

 

そもそも、話が通じていないのだ。条文の文字通りの意味は、この際議論しない。あなたがそれを支持する理由、そこに至るまでに得た情報を、私は問いただしたい。

 

あなたの言っていることは正しい。正しいからこそ、あなたは発言できている。

それに比べて、私たちの側の言葉にはキレがないかもしれない。事実、私はもう言い返す言葉が何もない。

 

それでもあなたたちの方が間違っているということは確かなのだ。

私がこういうふうに書く時、見境なく政権批判をしたいだけの典型的な「左翼」であるとか、「批判ばかり」といった言葉が付いてくるのもよくわかっている。その上でこれを書いているということを、よーく考えてほしい。

 

私は真剣に、あなたが「何も知らないで喋っている」可能性を疑ってかかっている。

 

あなたは、本当にこの条文について話し合うために最低限必要な情報の全てを知っているだろうか?

——少なくとも、維新・国民案によって付け足されそのまま採決されることになった「全ての国民」留意条項と教育にかんする「家庭」条項は、「バックラッシュ」(反動)という言葉で説明されることの多い政治状況を背景にしているということを、知っているだろうか?

——当事者のリアルを、本当に知っているだろうか?

——「トランスジェンダー」と「性同一性障害」の間に非常に複雑な関係があることを知らないで、トランスジェンダーは全員身体改変が必要だという前提に立ったりしていないだろうか? ねえ、雑すぎない?

 

あなたは、情報をどこから手に入れたのだろうか?

——TwitterやYahoo Newsからばっかりなんだったら、そもそもこのイシューに限らず、デマが簡単に拡散される場だということを押さえた上で、基本的なネットリテラシーに基づいた使い方をした方がいいですよ。あなたたちがこれをできていないから言っているんですよ。自分はわかってるから、って読み飛ばさずに、自分の心に問い直してください。

——当事者のリアルを知っておく必要、きちんと知識をつける必要があるということはよーくわかっていらっしゃるでしょう、皆さん。でも、いつもあなたたちの情報の片付け方を見ていると、こういう態度が透けて見えます。「色々ある。多様な可能性。少なくとも私たちは学び続けなくてはいけない。」結局、自分の頭を使って真剣に捉えようなんてしていないですよね。自分の頭の限界まで使って、理解しようっていう労力すら使っていないですよね。「理解」という言葉で表されるもののうち、最低限のもので良いのだと考えていますよね。「理解」さえしていれば、って。

 

あなたは、立法や行政、司法が誤謬をしでかすという可能性を、最初から度外視してはいないか?

——あなたは普段から政治や社会にそこまで信頼や期待を寄せていないタイプの人かもしれない。私たちのように、汗水垂らして時間と金使って政治のこと真剣に考えてる人たちのようにはできないから、私たちのこと馬鹿にしてるのかもしれない。それは屈折した態度であるけど、私はそれを責めたりはしない。でも言いたい、もしあなたが、政治や社会があなたに「くれる」ものをそのまま受け取って生活していて、それで当面はどうにかなっていると思っていても、同じように「受け取る」だけでは反対に自分の生活が危うくなってしまうばかりの人も大勢いるということ。その人たち、つまり私たちにとって、立法や行政や司法は全く安心できる無謬の神様では全くないということ。あなたたちが信じている宗教を、私は信じない。

 

本来、「マジョリティ」向けに書かれるべき文章とは、こうなのだ。マジョリティの皆さんの理解度に合わせて、細かいところを捨てて、耳聞こえのいいことばかり言って(もちろんそれも非常に大事。学ぶ意欲のあるマジョリティの人たちは、それをありがたがって読みたがるし、「理解」が進むのは事実だろうから)、そういうのではいけない。次のように叫ばなくてはいけないのだ。

 

お前たちは真剣に考えようとしていない。

「差別禁止」はやりすぎだけど、「理解」は大事だ。「理解」ならしてやろうと言っているお前ら。

「理解」してみろよ。「配慮」してみろよ。

言葉に対する敬意すら、お前らの中にはない。

お前らが散々馬鹿にするから、私たちの間でも使いづらくなった「多様性」も、ちゃんと考えたことあるのか。

そもそもの人間の条件を言っているにすぎないのに。

お前らは現実を何も見ていない。

イデオロギーを優先させて、本質を見ていないのはお前らだ。

 

最後に。「私たち」の一員であるあなたに向けて。

私はあなたたちを励ますようなことはできないし、たとえばTwitterでそんなことをやれば、すぐあいつらの餌にされるのがとても悔しい。「アカデミアの奴らはあーやって安全地帯で慰め合いをしていて、市井の女性を無視している!」とか、「仲間には優しいくせに」とか、そういうこと言われるんだよ。何でもいいんだと思うよ。

私は、あなたたちが、極めて理性的かつ正当に反撃をしている無数の場面を見てきた。私はそれに励まされもしてきたけど、正直なところ、とてもしんどかった。ああ、これほどまでに言い返せなきゃ生きていけない場所なんだ、ということが心の底からわかるような気がしたから。

私が励まされたのは、あなたが使っていたレトリックや考え方ではなく、あなたの存在そのものだった。私と同じように誤っていることと誤っていると認識し、戦っている人がそこにいるという事実が励ましだった。だから、間違わないでほしい。あなたが戦うのをやめたところで、あなたの存在は変わらないのだから、あなたは私を励まし続ける。

それに、どうせ書くなら、私みたいに書いてみませんか。

私たちは、「理性的に」反論することを求められてもう5年以上になるわけだ。

「モデル・マイノリティ」であれ、という圧力に屈し続けているわけだ。

そうでなきゃ話聞いてもらえないから仕方ないけど、やっぱりそれは限界のある手法だと思うんだわ。

 

大多数の奴らはまだ何にもわかっていない。

私たちが腹の底で抱えている怒りを受け止める準備すらできていない。

だから、あいつらは反動を起こす。

 

それで怯んでたまるか。

これから先、パレードができなくなったり、犯罪が今まで以上に私たちに向けられるようになったりして、あなたたちと会える機会は減るかもしれない。

こういう危機的な状況にあるということも、あいつらにはわからない。

でもまだ、話せる環境にあるうちに、徹底的に責任を追及してやろう。

 

怒りは非常に危険なエネルギーだ。

 

トランスジェンダーに対するヘイトの多くも、時期が進むにつれて、ヘイト目的ではなく、性暴力や性犯罪、ミソジニーに対する怒りを原動力として動いている人の割合が多くなっているように思う。

私はこの人たちと共に怒っている。

どうしてこの国はいまだに女性が女性であるという理由で殺されても、怒っている側の人を狂人に仕立て上げるのか。訴えがきちんと聞かれないのはどうしてなのか。性暴力という、一人の人間を一生苦しめ続ける暴力の存在が、これほどまでに軽視されるのはどうしてなのか。

 

しかしこの人たちは、私たちの側をも抑圧者として描写する。そのことには絶対に納得がいかない。

私たちはこうやって、怒りをどこにも表出できないでいる。

怒りがヘイトにも転化する危険なエネルギーであることを心の底から理解している私たちは、怒りそのものを抑圧してきている。

 

確かに怒りというエネルギーは、出しどころが肝心だ。

傷つけたくない仲間が、そのエネルギーを受けて傷ついてしまうこともある。

怒りというエネルギーは、ますます腫れ物になる。

 

しかし、怒りというのは非常に理性的なものでもある。

だって、私たちは不当に踏みつけられ続けているのだから。

その現状認識すら誤っているなどと言われ、私たちの認識すら疑わしいものだということにされているのだから。

 

どこに私たちの語ることができる場所があるのか。

私たちは結局、語ったところで、きちんと聞かれない。

彼らには、私たちの言葉を聞く準備など、全然できていない。

だから私たちは、言葉では伝わらないものを伝えるために怒るのだ。

 

私たちは、お前を許さない。

 

Pride Monthに寄せて

 

こんにちは。まるです。毎年六月はLGBTQ+を始めとする、多様な性的マイノリティをエンパワーメントする月で、プライド月間と呼ばれています。英語では、Pride Month。50年以上も前のストーンウォール暴動が6月に行われたことを起源としています。

 

今日も世界、そしてこの日本でも「性」に関連する、あらゆる政治が動いています。良い方向に動いているものもあれば、後退と言わざるを得ない動きもあります。

 

様々な形態の暴力により傷ついている人たちに向けて、取り急ぎ言えることが一つあります。東大TOPIAはこれからも活動を続ける、ということです。学生団体としてのキャパに限界ももちろんありますが、事態がどう動こうとも、私たちは「あなた」の味方になり続けたいと思います。

 

画面の奥からレインボーフラッグ、トランスフラッグ、プログレスフラッグなどたくさんの旗を振って「あなた」の笑顔を待ち望んでいます。

私たちは「あなた」の味方であり続けたい。